静けさの中に、確かな存在感を放っていた一人のレーサーが旅立った。
オートレーサー・伊藤正司さん。享年59歳。
その名が全国に知られたのは、1998年のSG「全日本選抜」での“初の決勝進出&初優勝”という驚異の瞬間だった。
レース場での彼は、派手な演出や大声ではなく、むしろ淡々とした佇まい。
しかし、走り出せば確実に結果を残す存在感。
「伊藤が出てきたら何か起きる」——観る者の胸に、そんな期待を抱かせた。
プロフィール──孤高のレーサー、その素顔
- 生年月日:1966年5月24日(享年59)
- 出身地:群馬県
- 所属/期別:伊勢崎オートレース場所属・20期生
- 選手登録:1987年7月1日
- 通算成績:1着722回、優勝36回
- 血液型:O型、身長・体重ともに小柄ながらバイクと一体となる走りが持ち味
職人肌の走り。大きなパフォーマンスではなく、淡々とマシンを操る姿。
それがファンからの「静かなるハンター」という愛称に繋がったようにも思える。
経歴──“初挑戦・初優勝”という伝説
1987年にプロとしてデビューし、世間の注目を集めるには時間を要した。
しかし1998年、川口オートで開催されたSG「全日本選抜」。
彼にとってSG初出場、初の決勝進出、そしてそのままの初優勝——あまりにも鮮烈な瞬間だった。
この一勝が、彼の名をレース界のレジェンドとして刻んだ。
その後も通算36回の優勝、722回の1着を誇り、38年に及ぶ現役生活を全うした。
学歴──語られなかった少年時代
学歴に関する明確な情報は公開されておらず、「どの高校・大学を出たか」は確認できない。
しかし、1987年に選手登録という事実から、高校卒業直後にオートレースの道へ進んだ可能性が高いと推察できる。
モータースポーツが盛んな群馬県で、若くしてバイクに親しんだ少年時代を送っていたのかもしれない。
家族──親子二代にわたる“レーサーの血”
結婚相手(妻)については詳細が公表されておらず、プライベートを控えめにされていた様子。
子どもについては、息子 伊藤正真さん(34歳・33期生・伊勢崎所属)が現役レーサーであることが確認されている。
“父の背中を追って走る息子”という構図は、多くのファンの胸に物語性を残した。
また、娘がオートレーサーを志望していたという一部報道もあるが、詳細な確認は取れておらず「噂」の域を出ない。
それでも、家庭の中に“レーサーとして生きる”という空気があったことは確かだろう。
死因──「病気療養中」だけが伝えられた最期
2025年11月8日、病気療養中のところ逝去。享年59歳。
公式発表には「病気療養中」とだけ記されており、病名・詳しい経緯ともに公表されていない。
(「病名非公表」という報道も複数あり)
病名を巡る“可能性の考察”
- 最後のレースに出場したのは2025年9月15日。そこから約2か月での訃報。
- 日常的な健康上のトラブルなら、途中で長期欠場という形になる可能性もあったが、出走継続していた点から“比較的短期に悪化した疾患”という可能性も。
- がん(特に膵臓がん・肝臓がん・すい臓)や重篤な内臓疾患、心疾患、あるいは呼吸器系の急激な悪化……など、一般的に「病気療養中」と報じられやすい疾患群が考えられる。
- ただし、オートレース界、及び選手当事者側では「プライバシー保護」「家族の意向」で病名・経緯を公表しないケースも少なくなく、病名特定には限界がある。
- 出場継続から考えると、「完治が見込めない進行疾患+体調悪化」が最終段階で急速に進んだ可能性が高い。
あくまで推察であり、公式に確認されたものではない。
しかし、彼が“最後の最後までレースに出続けた”という事実が、逆にその覚悟と体力・精神力の強さを示しているとも言える。
レース仲間たちが語る“職人魂”
「伊藤さんは、誰よりも静かで、誰よりも努力していた」——同じ伊勢崎所属の選手たちの証言だ。
整備場では言葉数少なく、ただ黙々と自分のマシンに向き合う姿。
それでいて、困る若手がいればさりげなく工具を渡し、アドバイスをくれる優しさもあった。
派手なスターではない。
だが“本物のプロ”の背中には、確かな重みがある。
その背中を見て育った後輩たちは、今も“伊藤イズム”を胸に走り続けている。
まとめ──最後まで“走ること”に人生を賭けた男
伊藤正司さんの人生は、まさに「走り続けた人生」だった。
1987年のデビューから2025年の最期まで。38年に及ぶ現役生活。
優勝36回、1着722回という数字。これらは単なる実績ではなく、彼が選んだ“生き様”そのものだ。
病を抱えながらも、最後までマシンに跨り、風を切ることを選んだ。
“勝つこと”だけを目的にしていたわけではない。
“走りを極める”、その覚悟こそが、彼のプロフェッショナルたる所以だった。
そして、その魂は息子へと受け継がれた。
静かに、しかし確実に――
その走りの音が、今も伊勢崎のコースのどこかで聞こえているような気がする。
伊藤正司さん、38年間、本当にお疲れさまでした。
そして、ありがとうございました。
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